羽田空港滑走路で起きた日本航空(JAL)の衝突事故。埼玉県に住む30代の鈴木浩一さん=仮名=も乗客の1人だった。客室乗務員の指示に従い、脱出用シューターをすべり降りた後、安堵の思いがこみ上げた。「命が助かって良かった」。一方で、身の安全が確保されたことを自覚した時、ぼんやりと思った。「荷物はどうなるんだろう」
預けたトランクの中には、4日分の着替えや職場へのお土産、友人宅で遊ぶために持参したニンテンドースイッチが入っていた。
避難した乗客は、全員の安否確認が終わってから約1時間後、バスに乗せられて空港内のホールに集められ、毛布やおにぎりなど簡単な食事が配られた。
「預けた荷物はどうなるのか」
JALの係員に尋ねる人もいたが、係員は「後日住所に送る」「詳しいことはお伝えできない」と答え、具体的な話はなかった。
ホールの出口は帰宅を急ぐ人で大混雑している。鈴木さんが交通費の精算用紙を受け取り、外に出た頃には午後10時半をまわっていた。
終電がなかった鈴木さんは、タクシーで埼玉の自宅に帰った。料金は3万5千円。既に日付は変わっていた。
翌朝午前10時、JALの専用ダイヤルから着信があった。
電話に出ると、オペレーターからは事故の謝罪と「荷物は探せない状況にある」との報告があった。お見舞金と荷物の焼失の補償分を合わせて計20万円が支給されるので、後日郵送する振込用紙と航空券を送るよう説明があった。
オペレーターからは「もし高価な品物があれば、分かる範囲で書面に記入して送ってほしい」とも言われたという。
「お気に入りの洋服とか、ゲームのセーブデータが無くなってしまったのは残念ですけど、買い直せば済むものですし、あきらめもつく。私にとっては十分足りる金額でした。でも、本当に高価なものや思い入れがあるものを預けていた方や、ペットを預けていた方の気持ちは、察するに余りありますが…」
「飛行機同士がぶつかった大きな事故で、全員無事だったのは本当に奇跡的だと思う。乗務員さんに助けていただいた感謝の気持ちしかない。あれだけの大事故で次の日に補償の案内があったのも迅速だったと思う」
また飛行機に乗る機会があったらどうするか、と記者が尋ねると、少し考えてこう答えた。
「まだなんとも言えないですが…。怖いという思いは今もそんなに感じていないです。また必要があれば乗ろうと思えるくらいの対応をしてもらったと思います」
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