なぜ結婚をしない人が増えているのか。『人間はどこまで家畜か 現代人の精神構造』(ハヤカワ新書)を上梓した精神科医・熊代亨さんは「コスパやタイパといった考え方が浸透し、結婚や子育てはコスパが悪いと考える人が増えている。これは、資本主義による人間の家畜化が進んだ結果だ」という――。
■コスパで考えると「結婚はマイナス」
明治安田生活福祉研究所の調査によれば、結婚について金銭的な損得やコスパの観点で考えたことがある人の割合は30代の未婚男女において特に高く、男性で45.7%、女性で48.3%となっています。
また男性未婚者は結婚の価値をお金に換算するとマイナスであると答えている割合が高く、結婚に対してコスパ意識を持っている人はそうでない人に比べ「結婚に希望が持てない」と回答している割合も高くなっていました。
同調査からは、コスパに基づいた結婚観を持っている人ほど結婚はコスパが悪い、よって結婚にリソースを割り当てるべきではないと判断している様子がうかがえます。
私は以上のような状況を、資本主義による人間の家畜化、あるいは“文化的な自己家畜化”の帰結であると考えています。
■わざわざ配偶や子育てを選ぶ人は「異端者」に
今後、私たちが「真・家畜人」として資本主義に一層忠実になっていくとしたら、配偶や子育てが納税のように義務化されない限り、それらをわざわざ選ぶのは異端者とみなされるように思います。事実、すでに私たちは衝動的に性行為し妊娠し出産する人を異端者のように眺めていませんか。
どのみち、IoT化によって一層の監視と介入が促される未来の世代再生産の場は現代人が理想視する家庭とは異なったどこかでしょうし、そのとき従来どおりの家族愛が成立しているともあまり期待できません。
家族愛の手前の段階、ロマンチックラブと配偶の結びつきにしてもそうです。男女が職場で出会い関係をもつことがハラスメントやインモラルとみなされやすくなり、マッチングアプリが台頭してきている昨今の風潮は、お見合い結婚が20世紀風の自由恋愛に根差した結婚に変わっていった、その変化のさらに次の段階が訪れつつあることを暗に示していないでしょうか。
つまり功利主義に基づいてハラスメントを回避しあい、資本主義に基づいてコスパやタイパを最大化しあう、そのような要件を一層満たす出会いが望まれ始めているように見えるのです。
工場ではなく家庭で子育てすること、専門家でもない個人が子育てをすること、自分の身体で妊娠し出産すること、さらに男女が身体を用いて性行為すること、これらがすべて忌避されるようになっても私は驚きません。