2024年春闘では、日本製鉄の14・2%の賃上げをはじめ、トヨタ自動車や日立製作所など大手企業が軒並み給与アップを打ち出した。政府は賃上げの波が中小企業にも広がることを期待する。その鍵を握るのが、生産コストの上昇分を取引先が分担する「価格転嫁」の実現だ。
2023年11月、政府は価格転嫁を促す指針を公表し、労働組合と財界のトップを含めた政労使のいずれからも「価格転嫁の実現を」との大合唱が起きた。取材すると、変化の兆しは見られるが、「きれいごとだ」と突き放す見方や大企業との格差拡大を嘆く声も聞かれた。
経営環境は苦しい。近年は原材料費が2倍、エネルギーコストは1・5倍に膨らんだ。2022年、全ての納入先に対して値上げするとの方針を通知し、20~30社との価格交渉に乗りだした。星野佳史社長(41)は「劇的な変化だ」と費用負担の急激な高まりに困惑しており「社内のコストダウンでは追いつかず、今までにない交渉をしている」と語る。
製品価格を引き上げれば賃上げの原資を確保できるが、全ての企業が希望した値上げ幅を認めてくれるわけではない。交渉の資料づくりも負担だ。星野社長は「値上げは企業として生き残るためだ」と説明する。原材料を購入する立場としては、仕入れ先から値上げの要請があった場合には、査定して基本的には満額で了承している。
星野社長は「値上げ分をどこかで負担しないとサプライチェーンが成立しないのであれば、いったんはスタックスで持つ。サービス、納期を安定させるため、大企業にもサプライチェーンを保つという意識を本気で持ってほしい」と訴える。
出典:www.sankei.com