■誰もが何かに依存している
依存症は、患者以外の人でもその心理をイメージしやすい精神疾患です。
仕事や対人関係で膨れ上がったストレスを緩和するため、一時的に依存したり没頭したりするモノや行為は誰にでもあるはずです。
会社ではうかつに話せないような秘めた趣味を持つ人も多いのではないでしょうか。
■なぜか許されている薬物「アルコール」
松本さんは、実に人間くさい依存症の臨床にはまっていきました。患者たちの歴史を探究したくて精神科医の道に進んだそうですから、水が合っていたのでしょう。
処方薬、市販薬、覚せい剤、危険ドラッグ、アルコールなど、様々な薬物の依存症患者と診察室で向き合ってきました。
これらの薬物の中で、その害が日本では特に軽視されているのが「アルコール」だと松本さんは言います。
アルコールには強い依存性があり、様々な事件・事故を誘発させるなど社会に最も悪影響を与えている薬物です。
世界保健機関(WHO)が2018年に発表した調査によると、世界で年間300万人が、アルコールの有害飲用が原因で死亡しています。
これは全死因の5・3%にあたります。
アルコールの世界的な摂取量は今後、更に増加するとみられています。
しかし、これほど拡大したアルコール関連産業を今さら根絶やしにはできません。
松本さんは「下手に取り締まると禁酒法時代(1920年代)のアメリカのように、反社会勢力が暗躍を始めます。
とはいえ野放しにはできず、酒を扱える店や時間を厳しく制限する国は珍しくありません。
ところが日本は規制が緩く、迷惑な酔っ払いにも寛容です。なぜアルコールにはこんなに甘いのか、理解に苦しむほどです」と語ります。
■「困った人」は「困っている人」
その一方で、この国では大麻や覚せい剤の所持などが見つかると、仕事も功績も、人権までも失いかねません。
特に有名人の場合、公開リンチの生贄を求め続けるメディアが集中砲火を浴びせ、薬物によるダメージを超える甚大な損害を与えます。
国民もそれを大衆娯楽のように楽しみ、「自業自得だ」とお構いなしです。
なんとか復帰してもその努力は評価されず、いつまでもウジウジとバカにされ続けます。
ある意味、薬物よりもはるかに恐ろしい社会現象です。
松本さんは多数の患者とのやり取りを通して、次のように思うに至ったと言います。
「最も有害なアルコールが野放しになっていることからも分かるように、よい薬物、悪い薬物という分け方に科学的根拠はありません。
ですが、薬物の悪い使い方をしている人は、ほぼ間違いなく他に困りごとを抱えています。『困った人』は『困っている人』なのです」
現代ビジネス
https://news.yahoo.co.jp/articles/2b5ee72603f43b9eb09d90bb709c887d1d604db1